腰痛の疫学
腰痛に関する3つの問題点
○発症率・再発率・慢性化率が高い
○医療費の高騰と経済損失額
○不適切な医療の横行
腰痛の統計
発症率
腰痛で困っている方は多いとは思いますが、日本全体でどれくらい腰痛を自覚症状としてあるのか。
有訴者数の割合では最も腰痛が多く、常日頃腰痛を抱えながら生活をしていることが想像できます。
- 腰痛は日本人の自覚症状の第1位であり、統計開始から24年間で57%増加
(厚生労働省、国民生活基礎調査、2010)
- 56研究をレビューした結果、時点有病率12~33%、年間罹患率22~65%、生涯罹患率11~84%
(Walker BF,J Spinal Disord,2000)
再発率
腰痛は1度なると期間をあけて度々再発する傾向があります。実際に腰痛をかかえている方の話を聞いていると過去に腰痛をかかえて度々再発している人が多いです。
- 36研究をレビューした結果、既往歴のない患者の22%、既往歴のある患者の56%が1年以内に再発し、全腰痛患者の再発率は60%
(Hestbaek L. et al, Eur Spine J,2003)
- 15研究をレビューした結果、痛みと活動障害は1ヶ月で改善して82%が職場復帰を果たすものの、1年以内に73%が再発
(Pengel LH. Et al, BMJ,2003)
慢性化率
普通に何十年前から腰痛持ちというのも枚挙にいとまがございません。
- 36研究をレビューした結果、既往歴のない腰痛患者の16%が6ヶ月後も欠勤
(Hestbaek L. et al, Eur Spine J,2003)
- スウェーデンで実施された25~74歳の一般住民1,806名を対象としたアンケート調査では(回答率90%)23%が3ヶ月以上の腰痛
(Andersson HI. Et al, Clin J Pain, 1993)
医療費
さて、腰痛によって発生する医療費というのは、どれぐらいの規模になっているのか?
下の説明を見る限りは莫大な医療費がかかっていることがわかります。
- 1990年度における腰痛の直接医療費は最低1.2兆円($130億)と推計され、慢性腰痛患者1人当たりの医療費は年間86~181万円($9千~1万9千)
(Straus BN, Spine, 2002)
- 1998年度の「公的医療補償支出調査」によると、総医療費8.6兆円($907億)のうち、腰痛の直接医療費は約1/4の2.3兆円($263億)
(Luo X. et al, Spine,2004)
経済損失額
腰痛によって仕事ができないことによる損失ですね。休業補償なんかもここに関係してきます。
- ボーイング社の産業関連腰痛を分析した結果、腰痛は労災補償申請の19%でしかなかったが、その金額は全補償額の41%にあたる1.7億円($180万)
(Spegler DM. et al, Spine, 1986)
- 「アメリカ生産性報告」から痛みによる生産性損失額を分析した結果、損失額は年間5.8兆円($612億)に上り、そのうち77%がプレゼンティズム
(Stewart WF. et al, JAMA, 2003)
不適切な医療
さて莫大な医療費を使われているのですが、適切な医療を受けられているか甚だ疑問であります。
無益・無害ならまだ良いのですが無益で有害な事が平然と行われているとしたらそれは見過ごせない問題です。
- 腰痛・頚部痛患者を4群に分けたRCTでは、標準的治療群とシャム群が最も成績が悪い
シャム群:見せかけの治療
(Koes BW. et al, BMJ, 1992)
- 672研究をレビューした結果、画像所見と腰痛との間に関連性なし
(Boos N & Lander PH, Eur Spine J, 1996)
- 椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症の治療成績は、手術実施率が高い地域の方が悪い
(Keller RB. Et al, J Bone Joint Surg Am, 1999)
医学の目覚ましい発展
- ハイテク画像診断装置の開発
- 新しい治療技術の開発
- 生体力学に基づく人間工学的介入
- 補完代替医療→統合医療
このように様々な先進的アプローチをおこなわれていますが、
それでも腰痛は減らない
腰痛の場所は?
このページの最後として、腰痛ってどこの痛みなの?について
腰痛と聞くと身体のどの部位の痛みを思い浮かべますか?
各個人によっても腰痛の訴えがあって痛みを指さしてもらうと結構まちまちだったりします。
国によっても症状の範囲が変わってきたりします。おおむね下部肋骨から仙骨(お尻の真ん中
にある骨)辺りまでの症状を指して腰痛と呼ばれているのではないでしょうか。
参考文献
TMSジャパンメソッド バージョン2013