腰部脊柱管狭窄

腰部脊柱管狭窄

 

腰部脊柱管狭窄の概念

腰部脊柱管狭窄とは、主として加齢に伴う退行性変化により腰椎部で馬尾や神経根が慢性的に圧迫を受けている状態である。加齢に伴い、腰部脊柱管狭窄による症状を有する頻度が高くなる。疫学調査によれば、70歳以上の約30~40%が、腰部脊柱管狭窄の症状を有している。症状発現機序としては、慢性的な神経に対する機械的圧迫と、それに伴う神経血流低下が主たる原因であると考えられている。

腰部脊柱管狭窄の症状

腰部脊柱管狭窄に最も特徴的な症状は、間欠跛行である。これは、歩行により、下肢の疼痛、しびれ、脱力が出現あるいは増強し歩行困難になり、しばらく休息すると症状は消失あるいは減弱し歩行可能となるが、また歩行すると同様の症状が出現するというものである。脊柱管狭窄症に伴う神経圧迫による間欠跛行を神経性間欠跛行といい、血管性によるものとの鑑別を要する。
腰部脊柱管狭窄のその他の症状としては、下肢のしびれ、疼痛、脱力、筋力低下、膀胱障害、陰部症状、腰痛がある。

間欠跛行

間欠跛行は腰部脊柱管狭窄に最も特徴的な症状です。間欠跛行とは歩行により、下肢の疼痛、しびれ、脱力が出現あるいは増強し歩行困難となる。しばらく休息すると症状は消失あるいは減弱し歩行可能となるが、また歩行すると同様の症状が出現するものをいう。腰を前屈したり、あるいは蹲踞の姿勢をとることで症状が軽快するため、休息中は腰をかがめる。つまり歩行時には出現しやすいが前屈み姿勢になる自転車の乗車では症状は出にくくなると考えられる。これは腰椎が前屈みになることで脊柱管や椎間孔が拡がり機械的圧迫が緩和されることによっておこる事象と考えられている。これらの間欠跛行は神経性によるものですが、発生に関して2種類の機序が考えられている。1つ目は立位や歩行によって生じる機械的圧迫が馬尾および神経根に影響を及ぼして症状が発現するという説と、2つ目は狭窄による血管の絞扼のため神経の血流障害が起こるという説である。

腰部脊柱管狭窄以外でおこる間欠跛行

間欠跛行は腰部脊柱管狭窄の主たる症状ですが、狭窄症による間欠跛行は神経性の症状ですが、血管性による間欠跛行があります。血管性の間欠跛行は狭窄症ではなく閉塞性動脈硬化症やBurger病などによる下肢の血流低下によっても引き起こされるため鑑別が必要になってきます。
血管性のものでは、足背動脈が触知不能であったり、下肢の冷感、チアノーゼ、皮膚潰瘍を伴っていることがある。また、体幹姿勢による下肢症状の変化は認められない。

○緊急性を要する腰部脊柱管狭窄の症状

腰部脊柱管狭窄で最も注意しないといけないのが馬尾障害型である。馬尾障害では膀胱障害、陰部症状がみられる。症状としては、排尿するまでに時間がかかる、排尿してから終わるまでが長い、尿勢が低下している、残尿感がある、頻尿である、失禁してしまうことがある、など様々である。また、intermittent priapism(間欠性陰茎勃起、歩行時などに疼痛を伴う勃起が起こること)や会陰部や陰部、特に陰茎先端の灼熱性疼痛を認めることがある。馬尾障害の症状がある場合は48時間以内に適切な処置を受けないと、後遺症が残る場合があるので注意が必要です。

腰部脊柱管狭窄の治療

腰部脊柱管狭窄に対する治療は、まず保存療法が第1選択となる。特に神経根型は保存療法が有効であり、症状の改善を認めず、かつ日常生活の障害が大きい場合には手術加療を考慮する。一方、馬尾型の場合は保存療法が無効である場合も多く、安静時にも下肢症状が出現するようであれば早期に手術加療を検討すべきである。
しかし下記の内容を読めば、手術の選択は保存療法を尽くしてから行っても遅くないのではないかと思ってしまいます。

TMSジャパンメールより

■6:脊柱管狭窄のある高齢者であっても、日常生活に支障がなければ保存療法による管理が可能であり、症状が現れてから3ヶ月間は外科手術を考えるべきではない(確証度D)。http://1.usa.gov/uhlYSO

■7:脊柱管狭窄症患者に対する外科手術の決定は、単に画像検査の結果に頼るのではなく、持続的な間欠性跛行、活動障害、その他の神経学的所見を考慮して行なわれるべきである(確証度D)。http://1.usa.gov/uhlYSO

■腰痛疾患の分野では十分な試験が行なわれることなく新しい技術が普及してしまう。アメリカでは脊柱管狭窄症に対する固定術の実施率が15倍に増加したが、それに伴い重篤な合併症、死亡率、再入院による医療費なども増加している。明らかに過剰診療。http://1.usa.gov/lrHYry

■脊柱管狭窄症の治療では、特異的な適応がほとんどない症例や、より簡単な治療で高い効果が得られる明確なエビデンスがある症例に対しても、より複雑な新しい手技(固定術)が行なわれている。エビデンスのないリスクを伴う高価な治療の急増は問題だ。http://1.usa.gov/mntabq

■脊柱管狭窄症で複雑な固定術を受けた患者は、除圧術に比べて命に関わる合併症リスクが3倍(5.6%対2.3%)。術後30日以内に再入院する可能性も高く(13%対7.8%)、手術費用も3倍強にのぼる(80,888$対23,724$)。http://1.usa.gov/lrHYry

■複雑な固定術を必要とする脊柱管狭窄症がわずか6年で15倍に増加したとは考えられない。脊椎分野のオピニオンリーダーの影響や思い込み、経済的利益などの要因が関与している。正確な情報を与えられれば患者は低侵襲性のリスクの小さい手術を選択するだろう。http://n.pr/8XAf9S

■脊柱管狭窄症に対する減圧椎弓切除術に関する74件の論文をレビューしたところ、減圧椎弓切除術によって優または良と評価できた割合は平均64%だったことが判明。やはりプラシーボの平均有効率70%を超えていない。http://1.usa.gov/k28GnN

■椎間板ヘルニアか脊柱管狭窄症と診断された腰下肢痛患者73名を対象とした硬膜外ブロックに関するRCTによると、ステロイド剤+局所麻酔剤群と生理食塩水+局所麻酔剤群の間に改善率の差は認められなかった。ステロイド注射は無効?http://1.usa.gov/qAFypS

■脊柱管狭窄を伴う変性辷り症患者76名を対象に、器具固定群と骨移植固定群の術後成績を2年間追跡したRCTによると、器具固定によって骨癒合率の向上は認められるものの、それが必ずしも臨床症状の改善に結びつかないことが判明。http://1.usa.gov/nfQM86

■脊柱管狭窄症と診断された腰下肢痛患者88名を対象に減圧椎弓切除術の成績を6年間追跡した結果、1年後の改善率は89%だったが6年後には57%に低下し17%は再手術を受けていたことから、これまで報告されていた成績より悪い。http://1.usa.gov/qEMqae

■脊柱管狭窄症への減圧椎弓切除術に関する論文74件を厳密に検討した結果、優または良と評価できたのは平均64%だったが、論文によっては26%~100%もの開きがあり、研究デザインにも不備が多いためその有効性は証明できない。http://1.usa.gov/qO1nB3

■若年成人の坐骨神経痛においては、SLR(下肢伸展挙上)テストを行ない記録する必要がある。脊柱管狭窄のある高齢者においては、SLRテストに異常が見られないことが多い(★★)。http://amzn.to/Hk8veA

■高性能の画像診断の普及によって1990年代から脊柱管狭窄症が増加したが、100名の脊柱管狭窄症患者(平均年齢59歳)の臨床症状と画像所見(単純X線撮影・脊髄造影・CT)を比較した結果、両者間に関連性は見出せなかった。http://1.usa.gov/RxEUW4

腰部脊柱管狭窄症による椎弓切除術を受けた患者88名を約10年間追跡調査した結果、75%が手術の結果に満足していたものの、23%が再手術を受け、33%が重度の腰痛を訴え、53%が2ブロック程度の距離も歩けないことが判明。http://1.usa.gov/Q5Iwdr

■65歳以上の脊柱管狭窄症による手術件数は1979年~1992年にかけて8倍に増加しており、地域によって5倍の差が生じている。手術成績に関する十分な情報がないまま生死にかかわる治療を選択せざるを得ない状況は好ましくない。http://1.usa.gov/S8iXZL

腰部脊柱管狭窄に対する選択的除圧術と脊椎固定術を受けた患者114名を分析した結果、65歳以上の42%に栄養不良が認められ、術後感染率が85%と高率だったことから、栄養不良は脊椎手術による術後合併症の危険因子である。http://1.usa.gov/R4q3Sz

■メーン州内の3つの地域で椎間板ヘルニアか脊柱管狭窄症によって手術を受けた患者665名を2~4年間追跡した前向き研究によると、手術実施率の高い地域の治療成績は手術実施率の低い地域よりも劣ることが明らかとなった。http://1.usa.gov/WM5BVN

■腰痛も下肢痛も経験したことのない健常者67名を対象にMRIで腰部を調べた結果、椎間板変性・変形性脊椎症・椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症のような構造上の変化はごく一般的な所見であることが判明したことから、手術の選択は慎重であるべき。http://1.usa.gov/10SgXcQ

腰部脊柱管狭窄とカイロプラクティックについて

カイロプラクティックの立場からみた見解では状況によって変わってくる相対的禁忌である認識を持っております。保存療法の1つになり得る認識を持っていますが、当然ながらカイロプラクティックによって狭窄の原因を取り除くことはできません。神経筋関節機能障害を起こしている状態ならカイロプラクティックアジャストメントによって機能障害を整え不必要な負荷をできるだけ取り除き、身体の自己治癒能力を発揮しやすい環境作りのお手伝いというスタンスとなります。

参考文献

菊地臣一(2005)『プライマリケアのための腰部脊柱管狭窄-外来マネジメント-』医薬ジャーナル社