イエローフラッグ
イエローフラッグ(心理社会的因子)
イエローフラッグとは
腰痛疾患の発症・慢性化・再発に大きな影響をおよぼす危険因子
レッドフラッグの徴候が無いものや、あっても専門医による精密検査にて異常
が見あたらない場合はグリーンライト(自己限定性疾患)となり、遅かれ早か
れ時間が解決してくれます。
それでもグリーンライトである腰痛・下肢痛が再発したり慢性化したりするの
は「イエローフラッグ」とよばれる危険因子があるからなのです。イエローフ
ラッグとは「心理社会的危険因子」といったところで、腰痛を引き起こし、何
度も再発させ、回復を妨げている真犯人は、腰の損傷ではなくて、
イエローフラッグという名の心理社会的因子ということです。
心理社会的因子の関与
心理社会的因子のエビデンス集
■うつ病と不安障害を併せ持つ筋骨格系疾患の患者は、痛み・活動障害・QOLが
最も悪いため、心理的問題も同時に評価すべき
(Bair MJ. Et al, Psychosom Med, 2008)
■15研究をレビューした結果、力学的因子より心理社会的因子(仕事の要求度が
高い・仕事の満足度が低い)が筋骨格系疾患の痛みと慢性化の予測因子
(Macfarlane. GJ, et al. Ann Rheum Dis, 2009)
■慢性腰痛と慢性疼痛症候群を5年間追跡した結果、重篤な慢性腰痛の予測因子
は、MRI所見や椎間板造影所見ではなく心理社会的因子
(Carragee. EJ et al, Spine J, 2005)
■労働環境の心理社会的悪化は病欠を増加させることから、労働条件の改善に
よって病欠が減少する可能性
(Head J. et al, J Epidemiol Community Health, 2006)
■リストラされた地方公務員を3年間追跡した結果、腰痛を含む筋骨格系疾患の
増加と早期死亡リスクの上昇が認められた
(Kivimaki M. et al, Am J Community Psychol, 2003)
■人員削減対策で事業規模を縮小した企業で働く労働者は、仕事量の増加・スト
レスの増大・健康状態の悪化・腰痛や筋骨格系疾患の増加・早期死亡リスクの
増加といった問題に直面する
(Kivimaki M. et al, Am J Community Psychol, 2003)
■幼少期に虐待歴のある腰痛患者は、心理的苦痛レベルが高く、職場復帰率が低
く、退院後の手術実施率も高い
(McMahon MJ. Et al, Spine, 1997)
■幼少期に虐待(身体的・精神的・性的)やネグレクト(育児放棄)を経験した
者は、それらを経験していない者より成人してから慢性疼痛を訴える傾向がある
(Davis DA. Et al, Clin J Pain, 2005)
■思春期(12~18歳)の社会経済的状況(両親の学歴・収入・社会階層)が良好
だと、成人してからの腰痛罹患率が低下する可能性
(Hestbaek L. et al, Eur Spine J, 2008)
■筋骨格系疾患と社会階層(社会的地位)には相関関係があり、社会的地位が低い
と慢性疼痛のリスクが3倍に上昇することから、格差社会の是正によって筋骨格
系疾患が減少する可能性
(Macfarlane GJ. et al, Ann Rheum Dis, 2009)
【腰痛に対する態度と信念】
◆痛みは有害であるという信念、もしくは恐怖回避行動(動作恐怖と極端な用心深さ)のために身体を動かせない
◆痛みが完治しなければ仕事や日常生活に戻れないという信念
◆身体を動かしたり仕事をしたりすると痛みが強くなると思い込み、元の生活に戻る自信がない
◆破局的思考、最悪の事態だという考え、症状に対する誤った解釈
◆痛みは抑えられないという信念
◆社会復帰に対する消極的な態度
【行動】
◆長期間の安静や必要以上に「休憩時間」をとる
◆身の回りのことをほとんどしないため、活動レベルが低下している
◆あまり運動をしない、あるいはたまにしか運動しないので、活動量が大きく変動する傾向にある
◆通常の活動を避けるようになり生産的活動から離れたライフスタイルへ変化している
◆過剰な痛みを訴える(0~10までのビジュアルアナログスケールで10を超える)
◆補助装具や家庭用医療機器の使用に対する過度の依存
◆腰痛を発症してから睡眠の質が低下している
◆腰痛を発症してからアルコールや市販薬などを大量に摂取している
◆喫煙
【補償問題】
◆職場復帰に対する経済的動機の欠如
◆受給資格審査が難航していて、所得補償や医療給付が遅れている
◆これまでに腰痛以外の痛みや障害で補償請求をしたことがある
◆これまでに腰痛以外の痛みや障害で長期欠勤(3ヶ月以上)したことがある
◆前回の腰痛でも休職して補償請求をした
◆前回の苦々しい治療経験(関心を持ってくれなかった、邪険に扱われたなど)
【診断と治療】
◆医療従事者が身体障害者と認定し、機能回復へ向けた介入を行わない
◆腰痛について矛盾した診断や説明を受けて混乱したことがある
◆絶望感や恐怖心を抱かせる診断名を告げられた(車椅子生活や寝たきり生活などを連想させるような)
◆治療への依存を強化し、受動的な治療の継続をもたらす、腰痛に関する医療従事者のまことしやかな説明を受けた
◆この1年間に何度も医療機関を受診した(現在の腰痛による受診は除く)
◆「機械的修理」を望んでいる(身体を機械のように扱うことを要求するなど)
◆前回の腰痛治療に不満がある
◆仕事をやめるようにという忠告を受けた
【感情】
◆身体を動かしたり仕事をしたりすることで強くなった、痛みに対する恐怖心がある
◆抑うつ状態(とりわけ長期間にわたる気分の落ち込み)で楽しいという感覚が喪失している
◆普段よりとても怒りっぽい
◆不安感が強くて身体感覚が過敏になっている(交感神経の緊張も含む)
◆大きなストレスがあって感情をコントロールできないように感じる
◆対人恐怖や引きこもりといった社会不安障害がある、もしくは外出する気になれない
◆自分は役立たずで必要とされていないと感じている
【家族】
◆パートナーや配偶者が世話を焼きすぎるあまり、悪化への恐怖心が高まったり絶望的な気持ちになったり
する(たいていは善意から)
◆配偶者の気遣いあふれる行為(仕事を肩代わりするなど)
◆配偶者の懲罰的な反応(無視したり欲求不満を顕わにしたりなど)
◆職場復帰へ向けたあらゆる試みに家族の協力が得られない
◆悩みを聴いてくれる相談相手がいない
【仕事】
◆とりわけ以下のような肉体労働の職歴(これらの職業と腰痛を結びつける思考)
・漁業、林業、農業
・大工やとび職を含む建築業
・看護師
・トラック運転手
・土木作業員
◆頻繁に転職を繰り返す、ストレスの多い仕事、不満のある仕事、同僚や上司との関係がうまくいかない、
性に合わない仕事といった職歴
◆仕事は有害であるという信念(腰を痛める、危険だ)
◆非協力的で不幸な現在の職場環境
◆学歴が低い、社会経済的地位が低い
◆重い物を持ち上げたり運んだりする、座りっぱなしや立ちっぱなし、車の運転、振動、無理な姿勢や同じ姿勢
を強いられる、休憩がとれない杓子定規の勤務スケジュールといった、身体に大きな負担のかかる仕事
◆夜勤を含む交替制勤務
◆仕事の分担や段階的な職場復帰がなかなかできない
◆腰痛に対する職場の対応で嫌な思いをした(報告システムがない、報告が禁じられている、上司や経営者に
よる懲罰的反応)
◆雇用主が腰痛問題に関心を持っていない
(ACC急性腰痛と危険因子ガイド2010)
緊張、悩み、不安、抑うつ、怒り、認知の歪み(完全主義や非観主義)、疼痛
行動(痛みの言語的・非言語的表現および疼痛回避行動)、不満のある仕事、
職場でのストレスはもちろん、医療システムや社会システム(経済的・政治的
問題など)のあり方が複雑に絡み合って腰痛の心理社会的因子となりえるとい
うことです。
初期の段階からイエローフラッグに関してもアプローチすることが重要だと考え
られています。
参考文献
TMSジャパンメソッド バージョン2013